世の中には2種類の人間がいる。メッツオリジナルを愛する人間とメッツオリジナルを愛さない人間だ。私は前者である。
そんな私には主張がある。
メッツとメッツオリジナルは別商品だ、ということである。
さて、”メッツオリジナル”とは何かという当然の疑問について解消しておきたい。だが、そのためには”メッツ”という炭酸飲料の話をしなくてはならない。話は長くなるが、どうか聞いてほしい。
メッツとは株式会社KIRINが1979年から販売している炭酸飲料のブランドを指す。発売当初から長くグレープフルーツ味のみを販売していたが、2015年にグレープ味、オレンジ味を追加し多角展開を始めることとなる。早くも余談だが、私のようなメッツを愛する人(以下、メッツァー)にとって「メッツ」とはグレープフルーツ味のみを指す。その他の味は邪道であるのだが、この主張は話の主軸ではないため聞き流して結構だ。
同年、メッツグレープフルーツ味はリニューアルが行われた。理由は諸説あるが、味覚設計やサイズラインナップの変更がなされたのだ。問題の根本はここにある。メッツァーはリニューアル後喜び勇んで新しくなったメッツを味わったのだが、皆一様に強い違和感を感じたのである。強い炭酸の波とグレープフルーツの瑞々しさは変わらずそこにあるものの、何か物足りないものを感じたのだ。その答えはリニューアル当時のHPに記載されていた。
そう、カロリーが足りないのである。俗に言うカロリーオフというやつだ。
一部のメッツァーはここで絶望した。なにせ、これから先メッツはカロリーがオフされているのだ。コカコーラを飲もうとしても常にコカコーラ・ゼロを飲まされるのだ。到底やっていられるものではない。
だが意外なことに、KIRINはこのリニューアルと同時にメッツァーに向けてこの絶望に対する答えを示していた。
ここで「メッツオリジナル」の登場である。ここまで読んでくださった方々、本当にありがとう。大変おまたせした。KIRINは従来の味覚設計のメッツを「メッツオリジナル」という名称で500ml缶限定で販売し続けたのだ。コカコーラとコカコーラゼロであればコカコーラ、マヨネーズであれば赤キャップを選ぶ民族の存在を、KIRINはきちんと認識してくれていたのだ。メッツァーもこれには大喜び。かくして大メッツオリジナル時代の幕が開けた。
私はこのメッツオリジナルを愛する人間である。すなわち、メッツ原理主義者と言ってもいい*1。時代の流れには致し方ないものがあるため、メッツのリニューアルに対し不平不満をもらすことはしない。メッツオリジナルがあるならばそれを飲むまでだ。
そう、思っていた。2016年までは。
大メッツオリジナル時代は、そう長くはなかったのだ。
2016年3月、メッツグレープフルーツ味は再びリニューアルを行った。
その際、今までのメッツオリジナルはリニューアル後のメッツグレープフルーツ味に統合されることとなった。すなわち事実上の販売終了だ。メッツオリジナルは変遷していくメッツグレープフルーツ味の「つなぎ」の役割を担っていたに過ぎなかったのだ。
メッツ原理主義者の夢は、ここで途絶えた。
メッツオリジナルが消えたあの日から、メッツ原理主義者の頭の中には常に山崎まさよしの「One more time, One more chance」が流れている。おれたちはいつでもメッツオリジナルを探しているのだ。向かいのホーム、路地裏の窓、そんなとこにあるはずもないのに。
探しているからこんなものにも巡り合う。
メッツオリジナルが販売終了してから長い事経っているのだから、在庫があるはずないと頭では分かっている。これはさびれた自販機でたまに見る、商品のパッケージが変わってもサンプルのパッケージが入れ替えられていないパターンのものだと頭では分かっている。
だが買ってしまう。買わなければ自販機に充填されているのがメッツなのかメッツオリジナルなのか分からないからだ。シュレディンガーのメッツなのだ。
もちろん排出されるのはメッツである。
いや、いや、いや。
ちょっと待って欲しい。
そうだよな、メッツオリジナルはもういないんだ、なんて一瞬おセンチな気分になりかけたが、少し待って欲しい。コカコーラを買おうとしてコカコーラ・ゼロが排出されたら人類皆怒るのではないだろうか?マヨネーズの赤キャップと白キャップが入れ替えれられて販売されていたら暴動が起きるのではないだろうか?
自販機業者に伝えたい。
メッツとメッツオリジナルは別商品です。早くサンプル変えて下さい。
このままでは定期的に「今回こそメッツオリジナルが排出されるのでは」と買い求めてしまいます。どうにかしてください。
以上です。言いたかったことはそれだけです。
僕は満足しました。