ぼんやり参謀

好きな事について書いたり、薬にも毒にもならないことを考えたりします。

俺こそがさんま焼き師だ

世の中には2種類の人間がいる。さんまを焼く人間と、焼かない人間だ。

これは1人の男がさんまを「焼かない」側から「焼く」側へと成長した物語である。具体的には、私がさんま焼き師認定試験という資格試験に合格した話だ。

 

7月14日のことである。

私ともう1人の男は岩手県大船渡市に向かうべく深夜バスに乗っていた。何故か。さんまを焼くためである。聞けば7月14日・15日の2日間を通して大船渡市ではさんま焼き師認定試験なるものが開催されるという。行くしかないのだ。しかも今年は第3回目らしい。もう乗り遅れているといっても過言ではないのだ。

 

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直通の深夜バスが満員だったので仙台駅を経由した。この事からも全国からさんま焼き師志望者が集結していることがよく分かる。

 

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大船渡市に到着。駅がとてものどか。

 

大船渡市は震災の影響を受けた都市だ。街には薬局や本屋、スーパーなどが広めの土地に点在しており、7年経った今も復興の最中であることを感じさせた。さんま焼き師認定試験も観光協会が主催しているため、きっと町おこしの一環なのだろう。よっしゃ、お兄さんじゃんじゃんお金落としてっちゃうぞ。

 

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街の景色。風が気持ちいい。

 

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さっそく贅沢した。うまい。

 

さて、さんま焼き師認定試験は前述の通り7月14日と7月15日の2日間をかけて行われる。14日に実技講習を、15日に筆記講習および筆記試験を行う段取りだ。14日の実技講習は昼過ぎからであったため、近場の神社などをうろうろしてから向かうことにした。

 

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近場の神社。写真の先にも階段が続いていて登りながら大変後悔した

 

神社をうろうろしていると相方がぽつりと「今日どんな人達が参加するんだろうな」と言った。

 

 

確かに。

 

 

考えてみれば我々はどのような人達がこの認定試験に集うのかを知らない。どのようなレベルの講習が、試験が行われるのかを知らない。なにせ「さんま焼き師認定試験」という言葉の響きだけでやって来てしまったのだ。知っていることといえば受験要綱に書いてあった、2日間で行われることと特製テキストが配られることだけだ。もしかしたら料理人だとか、漁師だとか、その手の本職の人達が集う会合の可能性もある。そんな事を考え出したら急に不安になってきた。大丈夫なのか、おい。こっちは学生くずれが2人だぞ。

 

だが引き返すにはもう遅い。我々はすでに大船渡の大地を踏みしめてしまっている。そして時間も差し迫っている。集合場所に向かうしかないのだ。たとえ本職の怒りに触れ海に投げ出される事になろうとも。

 

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おっかなびっくりしながら集合場所に移動。

 

到着後すぐに周りの人の様子を伺ったが、とりあえずいきなり海に投げ込むような怖い人はいなさそうだ。皆にこにこしているし。よかった。

 

参加者は30代〜40代が多めで、男性中心といったところだろうか。やはり我々の新参者感は拭えないものの、思ったよりも優しい雰囲気の方々が多いようだ。テレビの取材も来ていたので、これでいきなり海に投げ込まれる確率はゼロになった。

 

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なんとなく手持ちぶさたな感じで待機する参加者一同

 

受付を済ませると、「こちら二日間のテキストです」と大きめな封筒をもらった。そうだ、特製テキストが配布されるのだった。さんま焼き師のテキスト。もはやこれが欲しくてやって来たと言っても過言ではないのだ。

 

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これがさんま焼き師認定試験のテキストだ!

 

Office製感がぷんぷんする。まごうことなき手作りだ。最高だ、最高だよ。俺の夏は今始まったんだ。

 

我々がテキストに大興奮しているうちに受験者が全員集まったらしく、場所を移動して実技の講習が始まった。ちなみに今年の受験者は約100人だという。強い意志を胸に抱いた100人だ。

 

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世界で1人(と言っていた)の師範代の教えを聞く

 

師範代曰くさんま焼きは準備が8割らしい。必要物を揃え、火を起こし、炭を熱して場を整える。ここまでがさんま焼きの肝であり、時間のかかるところであるとのことだった。なるほど、勉強になる。そして準備物は観光協会に全て用意してもらっているため、我々は到着しただけでさんま焼きの5割を終えていることになる。なんたることか。

 

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早速チームに分かれて実践

 

炭を組んで着火するところまではおおよそBBQと同じ段取りだったので油断していたのだが、とにかく炭に火が燃え移らない。考えてみれば薪を燃やしたことはあれど炭を燃やしたことはなかった。炭ってこんなに燃えにくいものだったのか。これは確かに時間がかかるぞ。

 

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必殺技と言ってさんまが入っていた箱のフタであおぎ始める先生

 

先生の助けもあり、どうにかこうにか炭に火をつけることが出来た。それ来た、これで8割は終了だ。あとはさんまを焼いて食べるだけだ。

 

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みんなで並べて

 

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焼く

 

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焼けた!

 

美味しい。そのまま食べてももちろん美味しいのだけれども、会場には醤油やすだちなんかも置いてあって、より美味しくいただくことができた。

 

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さんまを焼いて食べるためだけの空間

 

ふと見回せば大の大人達が皆おいしそうにさんまを焼き、つついている。照りつける太陽、さわやかな風、焼きさんま。人はこれを青春と呼ぶのだろう。

 

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食べ終えたら次のさんまを焼く。ガンガン焼く。

 

一通り焼き終わったところで師範代がおもむろに参加者皆実技は合格と言った。お気付きの方もいるかもしれないが、先に述べた通りさんま焼き師認定試験における実技は『講習』なので、不合格という概念がない。全員合格金メダルなのだ。師範代の言葉に強い予定調和の文字を感じた。

 

各々が焼きさんまを堪能したところで1日目の実技講習は終了となったのだが、さんま焼き師認定試験はこれで終わりではない。翌日には筆記講習と筆記試験が待ち構えているのだ。さんま焼き師という資格においてはむしろ唯一の試験である筆記試験がある2日目こそが肝要と言ってもいい。我々に安寧の地はない。夜を徹して勉強しなければならないのだ。

 

解散後我々はただちに宿にチェックインし、ひと眠りし、風呂に入り、晩飯を食べ、ぐっすり寝た。

 

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晩飯では一足先にほたて焼き師になった

 

 

翌日、筆記講習及び筆記試験である。 

さて、ここで講義内容だとか、試験内容を書いてしまうと観光協会の方々に迷惑がかかってしまう可能性がある。そのため、具体的な内容に関しては控えさせていただく。この先は自分の目で確かめてほしいというやつだ。ただ一言言えるとしたら、講義がとても丁寧だったということだ。師範代が試験範囲をおそろしく丁寧に解説してくれたのだ。こんなの、もう落ちる人誰もいないじゃないかと思うほどだった。例えるなら一昔前の、キャンペーン名がそのまま問題の答えになっているクイズの感覚なのだ。

 

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こういうやつ。

 

そんな講義と筆記試験をもってさんま焼き師認定試験は終わった。結果は7月中に郵送で知らされるとのことだったが、事ここに至ってはそんな事もう関係ないと思った。1人1人がこの2日間、さんまの事を想い、焼き、食べた。俺達はもうすでにさんま焼き師なんだ。

 

 

 

おまけ

 

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いい話のような締め方でうやむやにしてしまったが、後日ちゃんと合格証が届いた。よかった。